- 森ノ音 -

【"人の琴線に触れるヒーリング作品の創作"を試みる】をテーマに掲げる- 森ノ音 -のサイトです。

森ノ音 ~ l'estudiantina ~|朗読 宮沢賢治「青森挽歌/春と修羅」| ピアノ演奏 フレデリック・ショパン「別れの曲 エチュードOp.10-3」|自然環境音/空間オーディオ|

【 森ノ音 ~ l'estudiantina ~ 】

     ❇︎

 ・宮沢賢治
  『春と修羅』青森挽歌より抜粋

 ・Frédéric François Chopin
  "L'intimité" Étude op.10 nº3

     ❇︎

 ・Act & Directed by
     …Kenji Kameo

 ・Dance…Yukina Yatsuka

 ・Piano…Rie Kawamura

 ・CG…Tamasato

     ❇︎

こんなやみよののはらのなかをゆくときは
客車のまどはみんな水族館の窓になる
(乾いたでんしんばしらの列が
 せはしく遷つてゐるらしい
 きしやは銀河系の玲瓏(れいろう)レンズ
 巨きな水素のりんごのなかをかけてゐる)
りんごのなかをはしつてゐる
けれどもここはいつたいどこの停車場だ

わたくしの汽車は北へ走つてゐるはずなのに
ここではみなみへかけてゐる

焼杭の柵はあちこち倒れ
はるかに黄いろの地平線
それはビーアの澱(おり)をよどませ
あやしいよるの 陽炎と
さびしい心意の明滅にまぎれ
水いろ川の水いろ駅
(おそろしいあの水いろの空虚なのだ)
汽車の逆行は希求(ききう)の同時な相反性

あいつはこんなさびしい停車場を
たつたひとりで通つていつたらうか
どこへ行くともわからないその方向を
どの種類の世界へはひるともしれないそのみちを
たつたひとりでさびしくあるいて行つたらうか

ーーー

かんがへださなければならないことは
どうしてもかんがへださなければならない
とし子はみんなが死ぬとなづける
そのやりかたを通つて行き
それからさきどこへ行つたかわからない
それはおれたちの空間の方向で はかられない

にはかに呼吸がとまり脈がうたなくなり
あのきれいな眼が
なにかを索めるやうに空しくうごいてゐた
それはもうわたくしたちの空間を二度と見なかつた
それからあとであいつはなにを感じたらう

わたくしがその耳もとで
遠いところから声をとつてきて
そらや愛やりんごや風 すべての勢力のたのしい根源
万象同帰のそのいみじい生物の名を
ちからいつぱいちからいつぱい叫んだとき
あいつは二へんうなづくやうに息をした
白い尖つたあごや頬がゆすれて
ちひさいときよくおどけたときにしたやうな
あんな偶然な顔つきにみえた
けれどもたしかにうなづいた
たしかにあのときはうなづいたのだ

ほんたうにあいつはここの感官をうしなつたのち
あらたにどんなからだを得
どんな感官をかんじただらう

ねつやいたみをはなれたほのかなねむりのなかで
ここでみるやうなゆめをみてゐたかもしれない

そしてわたくしはそれらのしづかな夢幻(むげん)が
つぎのせかいへつゞくため
明るい いゝ匂のするものだつたことを
どんなにねがふかわからない

ーーー

たしかにとし子はあのあけがたは
まだこの世かいのゆめのなかにゐて
落葉の風につみかさねられた 
野はらをひとりあるきながら
ほかのひとのことのやうにつぶやいてゐたのだ
そしてそのままさびしい林のなかの
いつぴきの鳥になつただらうか
l'estudiantina を風にききながら
水のながれる暗いはやしのなかを
かなしくうたつて飛んで行つたらうか

わたくしはどうしてもさう思はない
どうしてわたくしはさうなのをさうと思はないのだらう

《みんなむかしからのきやうだいなのだから
 けつしてひとりをいのつてはいけない》
ああ わたくしはけつしてさうしませんでした
あいつがなくなつてからあとのよるひる
わたくしはただの一どたりと
あいつだけがいいとこに行けばいいと
さういのりはしなかつたとおもひます


 ・春と修羅 宮沢賢治 著 - 青空文庫様URL -

www.aozora.gr.jp

     ❇︎

👇お仕事のご依頼・お問い合わせ・メッセージは、お気軽にお寄せ下さい。👇

✳︎
- 森ノ音 -は、"人の琴線に触れるヒーリング作品の創作"をコンセプトに活動しています。
www.youtube.com ✳︎活動の励みになりますので、宜しければチャンネル登録お願いいたします✳︎
✳︎